キュアやケアの実践家はエビデンスに基づく支援を求められる専門職であり、実践家と協働する教育者や研究者は時代に即した知見をスピーディーに普及させていく使命が求められます。在宅ケアは保健医療福祉をつなぐ日常の暮らしに焦点を置いており、病院、施設、地域でのケアを利用する人やケアの担い手の立場から発信し討論する場が、日本在宅ケア学会には期待されています。
本学会は介護保険法制定前の1996(平成8)年に在宅ケアを見据えた先駆的学会として設立され、2025年に30回目の学術集会を迎えます。この間、2014年には多職種が使えるテキストとして「在宅ケア学」を刊行し、2017年、2023年には人権や価値観を尊重した「在宅ケア実践の質の向上と推進に関するステートメント」を公表しました。クリニカルクエスチョンとシステマティックレビューにより2022年に「在宅ケア実践ガイドライン」が発刊され、2025年改訂が進行中です。学会を先導された初代島内節理事長、白澤政和理事長、亀井智子理事長をはじめ、役員、各種委員会委員、代議員、会員のみなさま、さらには学術集会や研修会に参加いただいた非会員のみなさまのお蔭で、アカデミックな学術団体へと発展を遂げてきました。今期より理事長を拝命する責任は重圧ではありますが、保健医療福祉職や教育、行政、司法、心理などの多様な専門職が揃う会員構成に支えられている強みを生かし、開かれた学際的な学術団体を意識して、在宅ケアの発展や貢献につながる学会運営を心掛けて参ります。
世界へ眼を向けると国際紛争や金融の経済不安、感染症パンデミック再来への懸念、日本では少子化と生産年齢層の人口減少、南海トラフ地震への脅威など、暮らしを脅かす要因は山積しています。一方で、これらに類似する危機はわが国が歩んだ戦後の復興とも重なり、時代背景の違いこそあれ本質的にはエンパワーする国民性を備えた相互扶助の国家であることを秘めています。学術団体の役割は国民や市民目線から多様性に富んだフォーマルやインフォーマルの社会資源をいかに形成していくかです。人を慈しみ、個人を認めあう共生社会の実現に向けて、ソーシャルキャピタルの醸成や地域包括ケアシステムの強固なコミュニティを築くヒントを得ていただけるよう、会員・非会員を問わず情報発信できる学会運営を目指す所存です。何とぞご支援のほどよろしくお願い申し上げます。
令和6年7月27日
日本在宅ケア学会理事長
中谷 久恵